迷走神経刺激カテーテル開発 ~ニューロシューティカルズ~

━━━iVNSサイトへようこそ

  • 心不全は一度発症すると一部の進行ガンと同程度に予後不良な疾患です。また、日本を含む先進諸国では、心不全患者が急増する「心不全パンデミック」の到来が大きな社会・健康問題となっています。心不全の主な原因の一つが心筋梗塞であり、虚血(組織に対する血液供給が不十分になること)による心筋ダメージはその後の心不全を引き起こします。現在の心筋梗塞治療は、カテーテルによる再灌流療法が最優先ですが、同治療と併用し迷走神経を電気的に活性化させることで心筋ダメージが著明に抑えられることが近年明らかになってきました。AMED先端計測事業のご支援を受け、私たちはこの治療技術を臨床応用するプロジェクトをニューロシューティカルズ社とともに進めてまいりました。循環器疾患治療の新たなオプションとして高いポテンシャルをもつ迷走神経刺激や私達の開発しているカテーテルのことをより多くの方に知っていただくために本ページで情報発信をしていきたいと思います。

    先人や自分達が一つづつ積み重ねてきた基礎研究の結果を大切にしながら、一人でも多くの患者さんを救うデバイス開発をめざして、今後も研究や開発を進めていきたいと思います。

    研究代表 朔 啓太

 
━━━迷走神経刺激とは

  • 迷走神経は第10番脳神経であり、脳幹部から直接、胸腹部を走行し支配臓器の機能調節を行なっています。迷走神経刺激は電子的に副交感神経活動を賦活化させる自律神経介入治療です。迷走神経刺激はコリン作動性神経節からアセチルコリン放出を促進させます。アセチルコリンがムスカリン受容体に作用することで心拍数の低下、NOシグナルの正常化、左室におけるノルエピネフリン産生の抑制や活性酸素産生の低下などの効果が発揮されます。また、ニコチン受容体(とくにマクロファージ)への作用は炎症性サイトカインの産生を抑制します。これは、Cholinergic anti-inflammatory pathwayと呼ばれます。
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━━━なぜ迷走神経刺激か?

  • 急性心筋梗塞は慢性心不全の主要な原因疾患です。心筋梗塞で形成された壊死巣は、その後の心臓リモデリングを引き起こし、最終的に心不全に至ります。この視点から、急性期の心筋壊死を減少させることは遠隔期の心不全抑制につながります。

    現在の心筋梗塞治療は早期再灌流療法が第一とされています。再灌流療法に併用し、心筋梗塞時の心筋ダメージを縮小するさまざまな薬剤が提案されてきましたが、臨床に普及しているものはほとんどありません。これは、複雑な心筋梗塞の病態において、単一の病態生理や分子機序に介入しても臨床において明らかな有効性を得ることは非常に難しいことが示唆されています。

    基礎実験において迷走神経刺激の心筋梗塞への有効性を示した報告は多く存在します。上村らは、ウサギを用いた実験で、心筋梗塞急性期から3日間の迷走神経刺激を行うことで、梗塞サイズの著明な低減と慢性期心臓リモデリングの抑制が得られることや左室への炎症細胞浸潤が減少することを示しました(1)。また、Calvilloらは、心筋梗塞(虚血再灌流モデルラット)の急性期のみに迷走神経刺激を行うことで心筋梗塞範囲が著明に減少すること、その効果の半分以上が心拍数非依存であること、さらにα7-nAch受容体を介した抗炎症および抗アポトーシス作用が主要な効果メカニズムであることを報告しています(2)。さまざまな研究者が、心筋虚血再灌流モデル動物を用いて、迷走神経刺激が多面的な機序を介して梗塞サイズを縮小することを繰り返し証明しています。

    心筋梗塞に対して多面的な機序から強力な心筋ダメージ低減効果を持つことが迷走神経刺激の特徴です。

    1: Uemura K, Zheng C, Li M, et al: Early short-term vagal nerve stimulation attenuates cardiac remodeling after reperfused myocardial infarction. J Card Fail 2010; 16: 689-699.

    2: Calvillo L, Vanoli E, Andreoli E, et al: Vagal stimulation, through its nicotinic action, limits infarct size and the inflammatory response to myocardial ischemia and reperfusion. J Cardiovasc Pharmacol 2011; 58: 500-507

iVNSカテーテル開発

新たなる挑戦

研究からデバイス開発へ

循環器疾患に対しての迷走神経電気刺激治療は、基礎研究において心筋梗塞に有効であることは報告されていましたが、心筋梗塞急性期に安定して迷走神経を刺激できるデバイスは存在しません。このアンメットニーズを解決するために「心筋梗塞急性期治療において、再灌流療法の手技を邪魔することなく、安定して迷走神経を刺激するデバイスを開発する」ことが私達の課題となりました。
 

解剖を見直すと上大静脈と気管に挟まれる形で迷走神経はほぼ直線的に走行していました。私たちは、カテーテルを上大静脈に留置し電気刺激を行うと、迷走神経が活性化したことを示す著明な徐脈が誘発できることを確認しました。さらに、これまでに確立してきた犬心筋梗塞モデルを用い、心筋梗塞急性期に同カテーテルで刺激を行うと著明な心筋ダメージの抑制と遠隔期の心機能低下や心不全が抑制されることが証明されました(3)。

3: Arimura T, Saku K et al. Intravenous electrical vagal nerve stimulation prior to coronary reperfusion in a canine ischemia-reperfusion model markedly reduces infarct size and prevents subsequent heart failure.  Int J Cardiol 2017, 15;227:704-710.

 
 
 

 
開発したバスケット型カテーテル 

日本発で世界初の医療機器開発へ

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)先端計測事業の支援を受け、平成28年下半期より、臨床応用を目的としたカテーテルデバイスの開発を開始しました。先端の単電極構造であったものを、留置性、刺激安定性および刺激部位選択性などを考慮し、多電極配置のバスケット構造にしました。現在、先端計測事業から引き続き、AMED医工連携事業の支援を受け、世界初の治験を目指し、開発を進めております。
 

カテーテル留置画像 

※ 開発機器についてのお問い合わせはニューロシューティカルズ社にて受け付けております。